引き続き、「原発なしで暮らしたい100万人アクション in ヒロシマ」から、26日の中国電力への申し入れのようすを紹介します。
(※申入書と中国電力からの回答書は下にあります)
チェルノブイリから25年となる4月26日、広島では「原発なしで暮らしたい人々」による数百~千人規模のデモ行進と、脱原発への政策転換を求めて、国(経済産業省)、県、市、中国電力に申し入れが行われました。
中国電力への申し入れの様子を紹介します。中国電力は福島原発の事故後、上関原発建設の工事の一時中断を宣言しましたが、今もなお、地質調査のためと予定地・田ノ浦では昼夜を問わず発破(爆破)作業を続けています。社長も、地元住民の理解が不可欠としながらも原発計画を進める方針を変えていません。
福島原発の事故の前後で何が変わったのか、どういう根拠で未だに原発を進めるのか。
この申し入れでは、7名しか中に入れてもらえませんでしたが、その内の一人として感想を述べたいと思います。
対応してくれたのは広報・環境部門マネージャーの桜井さん(他、渡辺さんと山本さんの3名)でした。
これだけ多くの人からの申し入れに対して、社長や重役ではなく、原発計画自体に権限を持たない社員に対応させるという姿勢にまず問題があると感じます。
福島原発の事故をどう考えるかという質問に対して、3名共、想定外だったという答え。うち一人は「どんな自然災害があっても安全だと考えていた」と正直な感想も。
「阪神・淡路大震災が起こり、原発の耐震基準が引き上げられたが、今回はその数百倍規模の地震だった。」と桜井さんは言います。
「仮に想定できていたなら罪だ」という答えもありましたが、想定内でも想定外でも罪だと僕は思います。
(日本のような地震大国に原発を乱立させて事故が起こらない方がおかしいと思います。)
想定外という言葉を繰り返すのは、原発事故の賠償について、巨大な天地災害が原因なら払わなくてもよいとする「原子力損害賠償法」を想定してのものかもしれません。いずれにせよ、想定外だということです。
ならば、次に起こるかも知れない地震や津波への対策ができているのかが問題になります。
上関原発の建設予定地には多くの活断層が存在すると専門家が指摘しています。
中国電力は原子炉設置許可申請(原発を建てていいかという申請)を国(原子力安全・保安院)に行っていますが、耐震性の不備を指摘されて、追加で地質調査を行っているのが現状です。
それが、福島原発の事故後も変わらず、予定地・田ノ浦で行っている発破(爆破)作業です。
そして、追加調査の内容は事故後も何も変わっていないということです。
今後の方針は、国が出す安全基準やエネルギー政策を受けて検討するとのことですが、それならば、今原発を推進し、発破作業を進める理由がどこにも見当たりません。
仮に、原発ができて事故が起こった場合、予定地から4キロ弱のところに位置する祝島の人たちはどのように避難するのかという質問に対して、「この先、考えようと思っていた矢先に福島原発の事故が起きた。今後、行政と共に行っていく」との答え。周辺住民が不安になるのは当然のことだと思います。
しかし、上関町長が民意が変われば原発計画中止もあり得るとしたように、中国電力としても地元住民の多くが原発を望まなければ進めることはできないということに変わりはないようです。
今、原発政策が揺れています。この先、どんな未来をつくるのかは私たちの選択にかかっています。
僕は原発なしで暮らしたい。そのために行動を続けたいと思います。
(今回の中国電力の回答については、再度、質問を行う予定です)
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2011年4月26日
中国電力社長 山下隆様
申 入 書
東北地方太平洋沖地震を引き金とした東京電力の福島原発事故は、1ヵ月半経過した現在も収束する気配を見せず、現場では、東京電力の社員や関連会社の作業員が、被曝も顧みず、困難な作業を続けています。水素爆発の危険はいまだ去らず、燃料棒の冷却を続けなければならない状態が続いていますが、冷却のために注入された水は高濃度の放射能汚染水となって、その処理にも大きな困難がともなっています。事故のレベルは、ちょうど25年前のチェルノブイリ原発事故と同じく、「7」となりました。
津波の被害に遭った人たちの救助や、遺体の収容が、他の地域では行われた中、福島原発の周囲では、強い放射線が出ているため、そうした作業も行うことができなかったと聞くとき、私たちはその残酷さに言葉を失います。他の地域では、何日か経てがれきの下から救助された人もあったのに、ここでは、救われるはずの何人かの人の命が、原発事故によって失われたのです。
放射能は広域に拡散しています。原子力安全委員会の緊急時迅速放射能影響予測によれば、福島原発から30km以上離れた飯舘村でも、甲状腺への内部被曝量が、3月12日午前6時から3月24日午前0時までの積算値で100ミリシーベルトに達しています。3月23日には、福島原発から210km離れた東京都の金町浄水場の水道水から1㎏あたり210ベクレルの放射性ヨウ素が検出されました。
福島原発事故後の3月17日、厚生労働省は飲食物摂取制限の暫定規制値を、放射性ヨウ素については、飲料水・牛乳・乳製品で1kgあたり300ベクレル(乳幼児では1kgあたり100ベクレル)、野菜類で1kgあたり2000ベクレルとしました。25年前のチェルノブイリ原発事故後、食品の放射能汚染に関して、日本は1kgあたり370ベクレルを超える輸入食品を積み戻していましたが、当時、この制限値でも甘すぎるとして批判の声が上がっていました。ところが今や、その基準より1桁高いレベルの放射能が検出される食品も、摂取制限の対象とはなっていないのです。これは、福島原発事故による放射能の拡散によって、広域の農地や海が汚染されることを、国が予想していることを示すものです。
しかし、放射能の晩発性障害発生にしきい値はなく、被曝のレベルが上がれば、それに比例して、晩発性障害の発生率も上がっていきます。そして、子どもや乳幼児の放射線感受性は、大人に比べて何倍も高いのです。
福島県の小中学校等で実施された放射線モニタリングの結果では、調査対象となった小中学校等の75.9%で「放射線管理区域」の基準にあたる1時間あたり0.6マイクロシーベルト以上の放射線が観測され、20.4%では、職業人の被曝限度を超えうる1時間あたり2.3マイクロシーベルト以上の放射線が観測されています。子どもたちが安全な環境の中で教育を受ける権利までもが侵害されています。
とるものもとりあえず福島原発の周囲から避難した人たちは、家に残してきた大切なものを取りに帰ることもままならない状態に置かれています。
ひとたび原発事故が起これば、このような悲惨な結果となるということは、繰り返し警告され続けてきました。地震や津波によって、たとえ原子炉本体は破壊されなくても、周辺の施設や機器が破壊されることによって、原子炉の冷却機能が失われ、重大な事故が起こるであろうということも、まるでこのたびの福島原発の事故を見越したかのように、原発の危険性を真剣に考える人たちによって、リアルに予測されていました。
しかし、東京電力の経営責任者たちは、こうした警告には耳も貸さず、このたびの事態を招きました。東京電力は今後、これらのあらゆる被害に対して償い続けていかなければなりません。
ひるがえって、中国電力は、東京電力とは違って、このような悲惨な事態を招くことはありえないと言えるのでしょうか。
残念ながら、中国電力の原子力発電所が稼動している松江や、原子力発電所の建設計画がある上関の近くで、このたびのような自然災害が起こらないという保障はまったくありません。
島根県においても、過去に陸地が海底に変わるような大きな地震と津波があったことが記憶されています。建設から37年の島根原発のそばには、建設時には「無い」とされていた活断層が、最短でも22kmにわたって存在していることが確認されています。
上関原発の建設が計画されている上関町田ノ浦から5kmの所には、長さ50kmに及ぶ活断層が走っています。近くには、今後30年間に大規模な地震が発生する可能性が高い、周防灘断層群、安芸灘断層群、岩国断層帯などの断層群が存在しています。田ノ浦から30km余りの所には、日本最大級の断層系である中央構造線も走っています。原子炉設置が計画されている地点の真下にも断層が存在しています。
さらに、中国電力の無責任体質は、東京電力をはるかに超えるものだと私たちは感じています。
昨年3月に明らかになった、中国電力の島根原発におけるおびただしい点検漏れも、その一端を示すものです。
中国電力が上関原発計画を進めてきた手続きにも、多くの問題があります。
中国電力が上関田ノ浦を原発立地計画地として選んだ理由は、1985年に上関町に報告した「事前調査」と、1994年から1996年にかけて実施された「立地環境調査」によって、「計画地が原発立地にふさわしいと分かった」からだとされています。しかし、「事前調査」においては、地質については、田ノ浦湾での調査は行われておらず、原子炉敷地でのボーリング調査は浅く、試験も行われていません。また、「立地環境調査」においては、田ノ浦湾でボーリング調査を行っていますが、「ボーリング位置」だけを山口県に報告し、調査内容も調査結果も、どこにも報告していません。このようなずさんな調査と報告で、どうして「計画地が原発立地にふさわしい」と言うことができるのでしょうか。
中国電力が1999年に提出した「環境影響評価準備書面」に対しては、山口県知事が追加調査を指示しています。しかし、中国電力が2000年に実施した追加調査では、山口県知事の指示があったにもかかわらず、最も重要視されなければならないはずの、埋め立てで無くなる磯・砂浜でのプランクトン・卵・稚仔の調査が行われていません。
上関原発計画が国の「電源開発基本計画」に組み入れられたのは、2001年5月です。
「電源開発基本計画」への組み入れに先立っては、「環境影響評価書」が提出されるべきですが、上関原発計画についての「環境影響評価書」が国に提出されたのは、2001年6月でした。この「環境影響評価書」の内容がきわめてずさんであることについては、市民や、生態学・生物学の専門家からも、繰り返し指摘がなされています。無論、磯・砂浜でのプランクトン・卵・稚仔の調査結果は、ここに記されてはいません。
また、「電源開発基本計画」への組み入れに先立っては、用地の取得がなされていなければなりませんが、上関原発用地となる四代八幡神社の神社地を中国電力が取得したのは、「電源開発基本計画」組み入れ後の2004年でした。しかも、この神社地取得をめぐっては、上関原発計画に反対していた宮司の退職願が偽造されるという犯罪行為がなされています。
また、「電源開発基本計画」への組み入れに先立っては、漁業補償が済んでいなければならないはずですが、上関原発により最も大きな影響を受ける祝島の漁業者は、この計画に同意しておらず、漁業補償金を受け取っていません。
上関原発計画の「電源開発基本計画」組み入れに至る手続きは、きわめてでたらめなものだったと言わざるを得ません。
2008年6月、中国電力は山口県知事に「公有水面埋立免許願書」を提出しましたが、このとき中国電力は、計画地選定理由に欠陥のある「事前調査」「立地環境調査」と、内容のずさんさが繰り返し指摘されている「環境影響評価書」を利用しました。
山口県知事が「公有水面埋立」を許可した後、中国電力は埋め立て工事に着手しようとしましたが、多くの人たちの抗議にあい、2009年10月、台風が接近している未明に、中古のブイを海に投げ込んで、もって「埋立工事着工」とするという、姑息な手段をとりました。
2009年12月、中国電力は、国に「原子炉設置許可申請書」を提出しました。ところがこれには、中国電力が2005年の「詳細調査」で行った115本のボーリングのうち、8本の地質柱状図しか添付されていません。さらに、ボーリングを行ったときボーリングに使用した水の92%がボーリング孔に浸透したと「詳細調査総点検報告書」で報告されている「No129」のボーリング孔が、「原子炉設置許可申請書」の報告では消えています。原子炉設置を予定している敷地の地盤の脆さを証拠立てる調査結果が、故意に消されていることがわかります。自然災害に起因する、このたびの福島原発の事故の結果を見るとき、中国電力が行ったこの隠蔽は、犯罪です。
中国電力の上関田ノ浦での工事強行には、多くの暴力的行為や反社会的行為がともなっています。
2009年11月には、中国電力によって田ノ浦湾の埋め立て工事に雇われていた作業員が、カヤッカーに暴力を働き、負傷させる事件が起きました。
また、中国電力は、しばしば夜中や未明に巨大な台船を運航させるという危険行為を行いました。
さらに、正当な理由から中国電力の工事強行に異議申し立てをしている人々に対して、埋め立て工事妨害に対する賠償請求や、妨害行為禁止・間接強制の仮処分申請といった「SLAPP訴訟」を連発し、圧力をかけてきました。「SLAPP訴訟」は、それ自体が、民主主義破壊につながる反社会的行為です。
今年1月に、中国電力は、田ノ浦において、発破作業を始めました。しかし、危険をともなう作業であるにもかかわらず、田ノ浦の住民には事前に何の知らせもありませんでした。発破作業の開始された1月6日、発破の直後に崖の崩落が起こり、大きな岩が海岸の岩場に落下しました。もし、ここを釣りに来た人などが歩いていたら、惨事になるところでした。しかし、中国電力は、何の根拠もないまま、「発破で崩落は起きていない」と言ってはばかりませんでした。
今年2月には、工事を強行するために、中国電力は多数の警備員を田ノ浦に投入しました。多くの人が、警備員に蹴られる・押し倒されるといった暴力を受けましたが、2月23日、ついに、祝島の女性が負傷して救急搬送されるという事件が起きてしまいました。このとき、中国電力社員が責任者も含めいちはやく現場から姿を消したことを私たちは忘れません。
以上にも述べたように、ごまかし・隠蔽・ルール違反を繰り返し、安全を軽視し、自社が行ったことの結果起こったことに対する責任をとろうとしない体質の電力会社が、原子力発電所において緊急事態が発生した際に、責任ある適切な対応がとれるとは、到底考えることができません。
福島原発で起きている事態に対して東京電力が非難され、責任を問われるとすれば、中国電力は、東京電力と同様、あるいはそれ以上に、非難され、責任を問われなければなりません。
こうした状況下で、もはや島根原発を運転する資格も、上関原発計画を推進する資格も、中国電力に無いことは、自明であると思われます。
ところが、3月28日の記者会見において、山下隆社長は、上関原発の建設について、「安全対策を地元に説明し、できるだけ計画に近い形で進めたい」と発言しておられます。この福島の惨状を眼前にしてなお、上関原発計画の撤回を決断されないことに、私たちは深い憤りを覚えます。多くの人の命と未来と財産が奪われ、大地や海の恵みが奪われ、放射線管理区域の中で子どもたちが暮らさなければならなくなる結果をもたらす計画を、あなたは進めようとしているのです。私たちは、そのような結果を受け入れることを、前もって拒否します。
さらに、上関田ノ浦の陸地部では、いまだに「地質調査」と称して、発破作業が続けられています。発破作業が始まってから、田ノ浦湾で、生き物の気配が感じられなくなったと言います。昼夜兼行で行われる発破作業が、「奇跡の海」である田ノ浦の自然に確実に悪影響を与えています。もはや進めるべきでない原発計画のための「地質調査」によって、貴重な自然が破壊されることを、私たちは認めることはできません。
時はもはや、自然エネルギーの時代です。世界的には、風力発電や太陽光発電の発電量が加速度的に増えつつあり、原子力発電は純減の時代に入っています。環境省は4月21日、「採算性を確保できる」という条件を加えた上で、風力発電によって、稼働率24%と仮定しても、出力100万キロワットで稼働率85%と仮定した場合の原発7~40基分の発電が可能であるという試算を発表しました。しっかりとした目標と政策さえあれば、「自然エネルギー100%」へのシフトも、夢ではありません。中国電力が一方で行っている、ソーラー発電や、小水力発電、火力発電所のエネルギー効率向上等の事業にも、大きな意味があると思います。
他方、原発を持つ電力会社に対しては、リスクの大きさから投資をひかえるという傾向が、世界では、一般的になっています。
私たちは、今生きて生活している人たちのために、これから生まれてくる人たちのために、そして、中国電力自身のために、次のことを今この場で約束されることを中国電力に求めます。
1.上関原発計画を白紙撤回すること。
2.上関田ノ浦における発破作業をただちにやめること。
3.最短でも22kmの活断層がすぐそばを走っている島根原発の運転を停止すること。
4.島根原発3号機の運転を、永久に開始しないこと。
5.再生可能エネルギー事業を推進すること。
6.上関原発に反対する人たちに対する訴訟・仮処分申請をすべて取り下げ、謝罪すること。
原発なしで暮らしたい人々
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中国電力から「原発なしで暮らしたい人々」への回答書
******************************** 平成23年4月28日
「原発なしで暮らしたい人々」 御中
中国電力株式会社
平成23年4月26日の申し入れに伴う回答
当社では、将来にわたるエネルギー安定供給の確保、地球温暖化防止に向けて、上関原子力発電所は大変重要な電源であると考え、上関原子力立地プロジェクトにおいて建設計画を推進しているところです。
しかしながら、このたびの福島第一原子力発電所の事故発生に伴い、本年3月15日から建設予定地における準備工事を一時中断しており、現在福島第一原子力発電所の事故概要や上関原子力発電所建設計画における地震、津波の評価・対策等について、地元の皆さまへご説明することを最優先に取り組んでいます。
追加地質調査は、発電所の耐震安全性を確実なものとし、皆さまにより安心していただける発電所づくりにつなげるために実施している調査であり、環境監視調査は、周辺自然環境の保全を目的とした調査であることから、継続実施いたします。
なお、発電所の工事施工区域における設備維持、環境保全に必要な維持管理作業についても引き続き実施する必要があります。
今後、福島第一原子力発電所の事故原因や対策、安全基準等について、国レベルで議論・検討がなされるものと考えますが、当社としては、これらに的確に対応してまいる所存です。
以上
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